俺がまだ中学生だった頃の話。
自分は野球部に入っていたのだが、その部活の中でもずば抜けてセンスある奴がいた。
良い奴ならともかく、自分が一番デキると思った途端、天狗になった。
そいつのポジションはピッチャーなのだが、既に高校野球でもそれなりに通用しそうなくらい、練習試合でバッタバッタ三振取ったり、外野にすら滅多に打たせないような重い球を持っていた。
そしたら大会前のある日、奴は往年の江夏豊ばりに言い放った「野球は一人でも出来る」
完全に調子に乗った一言だった。
他のナインはそいつに対して既に怒りに満ちていて、大会前最後の練習試合で監督も思うところがあったのだろう、許可をもらって、ある行動に出た。
内野にゴロが転がった。
明らかに投手の捌くボールではないボテボテのファーストゴロだったが、ファースト前に出ずに内野安打に。
天狗投手は「おい!何やってんだよ!」とキレる。
そのイニングが終わると、その一塁手に詰め寄る天狗。
一塁手はふてくされた態度で「野球は一人でできるんだよな?」と言い始めたら天狗が殴りかかろうとしたから、その場にいた皆で止めた。
監督も練習試合だったから、この次の回で天狗投手を降ろした。
監督も天狗投手を一切擁護せず、「わかったなら、一人でもできるなんて言わないことだな。お前の一言で、お前は完全に孤立して、皆の士気が下がってることに気がつかないのか?」と問うと、天狗は泣き出した。
天狗は・・・
「確かにあの日は一人でも出来ると思ったからそう言ってしまったんだ。皆がイラついているなんて気がつかなかった。」
と言ったのだ。
言ったところで謝罪はなく、そのまま大会を迎えた。
チームが団結すれば良かったのだが、まだ良く思わない奴らもいたせいか、練習試合では一度も負けたことなかった相手に惜敗。
そのときにやっと天狗は皆の前で謝罪した。
そう、このときは野手に落ち度はなく、取られた点は天狗の独り相撲だったのだ。
しかし、中学3年だった天狗を含めた俺たちはそのまま卒業を向かえ、天狗は高校でも野球部に入ったらしいのだが、遊びほうけてセンスのみで野球をやったせいで、監督に嫌われて試合に出してもらえなかったそう。
天狗が言い放った一言からドンドン野球人生が転落して行ってるようで、結局最後まで嫌いだった俺からしてみたら痛快で仕方なかった。