当時中学2年生だったうちの弟は、あまり勉強が好きではなかった。
出された課題とかは一応やるんだが、それ以上の事はしない。
当然ながら、中間・期末テストの成績は芳しくなかった。
3年に進級する直前の3月ごろ、そんな弟が塾の春期講習から帰ってきたんだが、なぜか大泣きしていた。
話を聞いたら、塾の先生に「今の成績だと、お前の行ける高校はこの辺だ。」と過去のデータを見せられたそうだ。
そこにあったのは地元でも最下位校とブービー校の名前で、その現実に酷くショックを受けたらしい。
その翌日から、弟はまさに人が変わったみたいに勉強を始めた。
春期講習中、朝は午前9時に塾へ行き、家に帰って来るのは夜の11時。
こんなペースじゃ3日と持たないだろうと両親も俺も思っていたが、弟はその生活サイクルをやり遂げ、新年度からの塾でのクラス分けテストで好成績を残し、ハイレベルクラスへ振り分けられた。
特に、社会科がよくできた。
勢いに乗った弟は中3になってからも勉強を続けた。
学校が終わってから制服のまま塾へ赴き、授業を受け、帰ってくるのはやっぱり夜11時。
講義が無い日はずっと塾の自習室で勉強していた。
その成果は中間・期末テストにきっちり反映され、志望校を決める中3の冬には、模擬テストの成績だけならば地元のトップ高校にA-判定が出るまでになっていた。
唯一の問題は、中2の時の成績が芳しくなく、総合的な内申点ではかなり不利である事だった。
ある日、弟は中学で担任に呼び出された。
弟が提出した、志望校調査の回答についてだ。案の定、散々になじられたらしい。
「ふざけてんのか?」
「俺は、お前がこの高校を受ける事を、許可してない。」
「ちょっと成績が上がったからって自惚れんな」
でも、弟は頑として志望校を取り下げなかった。両親も模擬試験の結果を持参して担任と面談をした。
結局、担任は渋々ながらに回答を受理した。というか、最初から担任の意向など関係無いんだけど…
結論から言うと、弟は見事志望校に合格した。得意科目の社会科は満点のオマケつきで。
両親も俺も、塾の先生達も大いに喜んだ。唯一の例外は、あの担任だった。
弟曰く、「合格報告に行った時、他の生徒とは握手するのに俺だけ無視された。ざまぁみろ!」
そんな俺の自慢の弟は、今年の春から大学を卒業して社会人です。