あれは、中学1年のときだった。
我が家の隣にはFM局のスタジオがあって、たまに有名ミュージシャンが来るので、よくファンがスタジオの前にたむろしていた。
ある日は隣に、その頃超有名でファンが熱狂的で知られている某バンドがやってきた。
学校から帰ると、自宅の前に赤やら青やら金色やら、とにかく色見本のような派手な髪と格好の女の子たちが座っていた。
しかも自宅のまん前に。
我が家は商売をしていて、その店の前の地べたに座っていたのだ。
当時バンドなどに免疫のなかった私は、自宅の前で立ち尽くし、入れずに半泣きだった。
その時、一番派手そうな女の子の後ろに、二人の影が。
母と祖母だった。
「あんた達、商売の邪魔だよ!!さっさとおどき!!」祖母の容赦ない一喝が飛ぶ。大声にびっくりした少女たちだったが、相手が老婆だと知って見縊ったのだろう。
「はぁ?るっせーなー、ばばぁ。ここお前の土地だって規定があんのかよ。あたし達がどこにいようと勝手だろ?」と口々にキレだす。
そこで、祖母の怒りが臨界点を超えた。
「ああそーかい。じゃあ、あたしも勝手にさせてもらうよ!!」と祖母はスタジオへ怒鳴り込む。
少しすると、FM局のスタッフや管理人やバンドの関係者が飛び出てきて、祖母に謝り倒す。
その間に母は自宅から塩を引っ付かんでやってきた。
「これ撒かれないうちにさっさとどきなさい!」
腰を浮かしかける少女たちに、スタッフが飛んできてようやく整理を始めた。
それでも怒りのやり場がないらしい少女たちはまだぶつぶつと、「ふん…。なんだよ、このしわくちゃババァが…。お前なんて○○の相手にもなんねーよ」
祖母が不敵な笑みを浮かべて(これが本当なんだから恐ろしい)「安心しな。あんたらも50年経ったらこうなるんだよ。それにあんたらのお熱の人になんか相手にもされたくないね」
その一言に集まっていた町内の人や野次馬から拍手が上がった。
彼女たちが整理され列の中に消えていくと、祖母が私に詰め寄ってきた。
「私の目の黒いうちは当然あんたにあんな下着みたいな格好させないけどね、もし私がくたばってからでもあんな格好してごらん。祟ってやる」と言い、私を連れて
家へ戻っていった。
昔から気の強い祖母だとは思っていたけれど、まさかここまで啖呵を切れるとも思っていなかった私は、本気で腰を抜かしかけた。(後で聞いたら、散歩の帰りに通り過ぎざまに「きったねーなーババァ」と吐き捨てたいかにも悪そうなヤンキーたちに、謝るまで説教したらしい)
大正生まれの剛の祖母、恐るべしである。